二萬打SS

□ぼく達の距離2
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チャイムが鳴ってすぐ、

ぼくはすぐに机の横に掛けていた紙袋を持って席を立った。


やや早足で上へと向かう。
この時間のお決まりの道だった。





人気の多かった廊下もやがて抜けて…

向かった先は古臭い扉の前。



軋む音を響かせて開ければ…


其処はこの学校で一番見晴らしの良い所、





屋上だった。








ぼく達の距離 2






そろそろ秋になりかけの空は暑くも寒くもない心地良い風を運んでくれる。


ぼくはドアから少し歩いて屋上の敷地の真ん中辺りに腰を置いた。



端に行くと、他生徒に見つかってしまう。

するとそれは些か面倒な事になるので、いつも真ん中に陣取るのだ。


「さて、準備するか」


紙袋から丁寧に中身を取り出して、包みを開いていく。


一人分にしては大きすぎるソレ、は自分と…もう一人の為のもの。



今度は中から取り皿と箸を取り出していた時、


静かだった屋上へと続く階段が慌ただしい音を立て始めた。




(来た、な…)


もう少し静かに歩けないのか、と考えるのはこれで一体何回目だろうか…


バンッ!



派手な音を立てて勢いよく扉が開いた。


「ッはぁ、はぁ…っはぁ」


此処まで走って来たのだろう、随分息切れしている。


ずんずんと此方に近付いてくる姿を見ないようにして、
皿と箸を自分の向かい側に置いた。




「はぁっ、は…ヴォル、フラム」

「今日は少し速かったな。そんなに腹が減ったのか?」

「そりゃ体育の後なんだから腹は減る…ってそうじゃねーよ!!お前またおれを置いて行ったな!!」



肩で息をしながらそう言う。

ぼくは話題には触れずに目の前のお重の蓋を開けてユーリに見せた。


「どうだ?今日は気分が乗ってな、自信作ばかりなんだ」

「綺麗だよ。今日のも旨そ……ぁ、はぐらかすなよな?今日こそは答えて貰うんだから!!」




吊れたと思ったのに…。

合わせたユーリの目は少々本気で怒っている様だ。


どうしたものか、と悩んでいると、ぼくの目はいつの間にかその胸元へ留まっていた。


恐らく暑いから外しているのだろうが些か胸元が開きすぎじゃないか?



「……。ユーリ、とりあえず座れ。それとも、立ちながら食べるつもりか?お前は」


ふてくされ気味のユーリがドサッと音を立てながらも座る。

素直に従う所がまた可愛いのだが、今言うと本人はきっととても怒るだろうから…

それは、止めておこう。




「それで?」

「今日の一番のオススメはなんと言ってもこの玉子焼きなんだ。この真ん中の半熟具合がまたなんとも…」

「………」


視線が、冷たいな。

これでもぼくは本気なのに…



「………」


…あぁ、わかったよ。


ぼくがこの目に弱い事を…知らずにしてるんだろう、まったく。



「…先に来て用意をしておきたかっただけだ。そうすれば一緒に直ぐ食べられるだろう」

「別にそんなのッ」

「ユーリと少しでも長く此処に居たいという、ぼくの我が儘だ…駄目か?」

「…教室で待っててくれたら、此処までも一緒にいれるじゃんか」


責める様な顔でそんな嬉しい事を言う。
意外だな。

だが、


「言っただろう。ユーリと此処に居たいんだと」




黙り込んだ隙にユーリの取り皿に適当におかずを入れてやった。

甲斐甲斐しくなったものだ、ぼくも。



「時間がなくなるぞ、ほら」

「ん、ありがとう」




嘘は吐いていない。

しかし、本当は他にも理由があった。


それはあまり長く教室に残ると周りに取り巻きがやってくるからだ。

やれお昼は何処で食べるの?だの、

お弁当を作って来たから一緒に…だの、


教室に長く居れば居るだけユーリが戻って来ても今程に一緒に居られない。

ぼくはそれを知っているから…



(まったくもって煩わしい。何故知りもしない奴と食事を共にしなければならないんだ。……それに)





その取り巻きに囲まれて居るぼくの姿を見たユーリの表情を、


一度見てしまった事があるから……



本人に自覚はないだろうが、あれはもう御免だった。





ところで未だにブツブツ呟いているユーリは、ぼくのお勧めだと云った玉子焼きにはまだ手を付けてくれない。

それが何だか悔しくて、

敢えて何も言わずに本人の口元に半分に切った玉子焼きを差し出した。



それを暫くじーっと見つめていたユーリだったが、やがてパクッと音を立てて口に入れた。


……可愛いじゃないか。


「ぁ、美味い」

「だから云っただろう。自信作だと。いいからもっと食べろ。腹が減っているんだろう」

「ぅ、うん…」



それから暫く、主に今日の事を話しながら沢山詰めてきたお弁当を食べた。


流石に多いかとも思ったんだが…


案外軽く食べ切れてしまった。
ぼくはともかくユーリが運動後、というのもあるのだろう。



あーお腹いっぱい、ご馳走さまー



なんて満足そうに言うユーリが大きく伸びをして、そのまま横に…




「行儀が悪いぞユーリ」

「えーいいじゃん。ヴォルフラムもやってみろよ!こんなに天気が良くて気持ち良いんだから楽しまないと損だぞ」

「しかし…」


服も汚れてしまうのではないか…?


「もう!こんな所で行儀も何もないだろうが。ほら、早く」


水筒を直していた腕を下から引っ張られる。


それも…そうだな。



「待て待て、するからそう急かすな」

「時間なくなんぞ、片付けならおれも後で手伝うからさ」

「…わかった」



こういう時だけ積極的なのだから困ったものだな。


それまで片付けていたものを全て避けて、ユーリの側に横になれる空間を作った。



寝転ぶ段階で、頭の位置を確認しようとユーリの方へ振り向いた…が、



「…気持ち悪い。何笑ってんだよ」

「ユーリ、米粒がついてる」

「えっどこッ!」


反対側を抑えてどうするんだ。


「取ってやる。じっとしてろ」

「え?いいよ」

「煩い、動くな」



ぼくは笑いを治めて片方の指でユーリの唇を押さえた。



喋られたら動いて取れないと思ったからの行動だったが…



見上げてくる真っ黒な瞳見て、

その闇が写す視界の全てがぼくでいっぱいになれば良いと思った。


ユーリに覆い被さって床に手をつく。




すると、思いもよらぬ事に、震えた瞳をゆっくりと伏せて大人しくなってしまうものだから、

思わず心臓が騒がしく音を鳴らしだす。





我慢出来なくて、ぼくは指で触れた弾力ある柔らかそうな唇…

そのすぐ横に、



自分のものをそっと這わせた。



ユーリの身体がびくんと波打つ…



その下唇の端と軽く触れ合って、それだけでまた堪らない程に心が躍ったが…


鈍感なこいつの為に敢えて気付かない振りをした。




仕上げに其処をペロリと舐めて、

勿体付けて顔を離す…と、ぼんやりしたユーリと目が合った。





「ヴォ、ル…フ?」


一瞬何が起こったのか、理解の速さがついて来ないのだろう。



「…な、に?」


(やはりもどかしいな…)



こんな関係など、

崩してしまいたくなる。




「…馬鹿。こっち側だ」

「ッ………―//」




感情を抑えて、業と意地悪く笑うと、口元を抑えて途端に顔を真っ赤に染めた。


そんな反応までもが唯初々しくて嬉しい。



「ばっ//馬鹿はお前だ!!何やってッ、せめて手で取れ!獣かお前はッ」

「あ―…そうだな。ぼくは確かに獣だからそう言われても仕方あるまい」

「はぁ!?」




完全に混乱しきっている。


単なる名前の問題だ、と教えた所でこいつには今更解らないのだろうが、



それよりもぼくは、視界の端に日焼けていない象牙色が映って言葉を失った。





思わずそそられてしまう程に、

普段は布の下に隠された、其れは美しい珠の肌。


露出された肌が上下にゆっくり波打つ…―



(…嗚呼、なんて綺麗なんだろう)



そんな色気に当てられて、
思わず生唾を飲み込んだ。



まったく。
何を考えているのかぼくは…



「なんだよ…。なんで急に黙り込むんだよ」

「…ユーリ、もう体育の時の熱も冷めただろう。こっちを向け、釦を留めてやる」

「ぇ、ええッいいよ。それ位自分で…」

「良いから、甘えてろ」



これはぼくのちょっとした我が儘なんだが…



誰にも見られたくなくて、開いた制服の釦を全て止めてやった。



「ちょ、ヴォルフ苦しいんだけど…」

「絶対に外すなよ」

「…何で?」

「何でもだ」


不思議そうな目でぼくを覗き込んでくる。


愛しいコイツに、痕の一つでも付けられれば、きっとこんな事をしなくとも済むのだろうに…



しかし…


「ま、其れはおいおいな」

「は?何だよ急に」




先はまだまだ遠い気がするから今はまだ急がなくていい。


そう思いながら、

寝ているユーリの隣に倣って…


ぼくは残りの二人きりの時間を満喫する事にした。











続く。

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